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精神障害の労災認定基準 見直しへ

厚生労働省の「精神障害の労災認定基準に関する専門検討会」は、7月4日に報告書を取りまとめ公表しました。

この報告書は、近年の社会状況の変化等を踏まえ、認定基準全般の検討を行ったものです。

厚生労働省は、この報告書を受け、精神障害の労災認定基準を改正、見直す方針です。

 

目次

業務による心理的負荷評価の見直し

この報告書によると、精神障害の労災請求件数は年々増加傾向にあり、令和4年度は2683件に上りました。
この背景には、制度の認知度の高まりとともに、働き方の多様化、職場環境の変貌など社会情勢の変化が大きく関係していると考えられます。
このような状況から、専門検討会は迅速かつ適切に精神障害事案の審査が進められるよう、最新の医学的知見や裁判例等を踏まえ、認定基準の見直し案を提示しました。

精神障害の労災認定要件は、次の3つをすべて満たすことが条件となります。
①認定基準となる精神障害を発病している
②①の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められる
③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められない

このうち②の要件は、発病前のおおむね6か月の間に起きた業務による出来事について心理的負荷の強度(「強」「中」「弱」)を評価するため「業務による心理的負荷評価表」が参照されます。
これにより心理的負荷が「強」と判断されれば、認定要件を満たすことになります。
報告書は、この心理的負荷評価表を刷新し、審査基準の具体化と明確化を図りました。

具体的出来事の追加

新たな心理的負荷評価表では、2つの具体的出来事が追加されました。

1つは、近年、新たな社会問題とされる「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」いわゆるカスタマーハラスメントを新たな具体的出来事に追加しました。
「強」とされる具体的事例として「顧客等から、治療を要する程度の暴行を受けた」「顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」などが例示されています。

もう1つは、新型コロナウイルス感染症を念頭に、感染リスクを負いながら業務に従事する心理的負荷を踏まえた「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」というものです。
「強」に該当する具体例として「新興感染症の感染の危険性が高い業務等に急遽従事することとなり、防護対策も試行錯誤しながら実施する中で、施設内における感染等の被害拡大も生じ、死の恐怖等を感じつつ業務を継続した」と例示されています。

また、類似性の高い出来事や「強」と診断されることがまれな出来事を統合し、全体の出来事数を37から29までに整理し、さらに近年の決定事例や裁判例等を踏まえ、総合評価の視点や具体例が拡充されました。
特に具体例は、すべての具体的出来事において「強」「中」「弱」の強度ごとに例示し、改正前より詳細かつ明確になりました。

審査・評価が難しいケースの判断基準の明確化

今回の報告書は、精神障害の労災事案の審査・評価において判断が難しいとされるケースについても、判断基準の明確化を図っています。

例えば、診断・治療歴のない自殺事案における発病の有無の判断、他の精神障害を有する者の発病の有無の判断、既存の精神障害の症状安定後に既存症状が悪化若しくは新たに発病したと考えられるケース、精神障害の発病に関する業務での出来事が複数あり、心理的負荷の総合的判断が必要なケースなどです。

特に症状安定後に既存の精神障害が悪化した場合、これまでは極度の長時間労働など特別な出来事を要因として精神障害が悪化した場合にのみ業務起因性を認めていましたが、報告書では特別な出来事が無くても、業務による心理的負荷が認められる場合は、症状の悪化は業務に起因することを認めることが妥当であると指摘しています。

その他、複数の出来事の評価に関しては、出来事が相互関連している場合、関連していない場合の考え方、留意点、参考例を整理し例示しています。
治療歴がない自殺事案に関しても考え方や留意点等を明確化し、迅速で適切な審査を促しています。

まとめ

精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会では、社会情勢の変化を反映し、労災認定要件や業務における心理的負荷評価表の内容をはじめとする認定基準全般について、検討を行ってきました。
そして、報告書の最後は次の文言で締めくくられています。

「業務上の事由により被災した労働者やその遺族に対しては労災保険給付が行われるが、人の生命・健康はかけがえのないものであり、過労死等はあってはならないものである。
業務による心理的負荷を原因とする精神障害の防止のために、行政当局は、引き続き、メンタルヘルス対策、長時間労働の削減に向けた取組の徹底や、過重労働による健康障害の防止対策、ハラスメント対策、国民に対する啓発活動等を進めることが必要である。」

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