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発達障害や知的障害で働いていても   障害年金は受け取れます

近年、障害年金の財政状況などを背景に、審査基準が厳しくなる傾向があります。
特に精神疾患の場合、身体疾患と異なり、外見から障害の程度が分かりにくいため、より慎重な審査が行われることがあります。
精神疾患による障害年金の等級判定は「家事や身のまわりのことなど日常生活場面における援助の必要性(日常生活能力)」を評価軸としています。
障害年金請求に必要な診断書は障害種別ごとに8種類あります。
しかし、「就労状況」の記載項目があるのは「精神の障害」のみです。
働くことも「日常生活」の一部なので、就労状況も総合評価の対象となるのです。
それにより「就労している=日常生活は自立している」と判断され、障害年金は不支給になるのではと考える方や医師が少なくありません。
不支給になるのは「就労しているから」ではなく、「就労上の課題」を上手く書類で伝えることができなかったことによるものが多いようです。
今回は、特に発達障害や知的障害など精神疾患における「就労の審査」の重要なポイントを見ていきましょう。

目次

障害者就労を織り込んだ認定要領

知的・発達障害の認定要領における「知的障害(5)」及び「発達障害(6)」に以下の記載があります。
「就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労している者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。
したがって、労働に従事していることを持って、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。」

上記の内容では「(知的・発達障害は)どのような働き方であっても、援助や配慮のもとで労働(障害者就労)に従事している。」と読み解くことができます。
この文言は統合失調症やうつ病等、他の精神障害の認定要領には記載がありません。
このことから、知的・発達障害の認定要領は「障害者就労」に従事していることを前提として策定されたと考えられます。

障害者就労の形態

「障害者就労」には、様々な形態があります。
大きく分けると、(1)障害者雇用率制度(障害者雇用促進法)、(2)障害者就労支援サービス(障害者総合支援法)、(3)その他(家業など)の3種類があります。

(1)障害者雇用率制度(障害者雇用促進法)

障害者雇用と聞くと、一般企業(特例子会社を含む)のいわゆる障害者枠で採用された従業員をイメージする方が多いでしょう。
しかし、障害者雇用促進法で定める障害者雇用率制度の対象は「身体障害、知的障害又は精神障害(発達障害を含む)その他心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」とされています。
具体的には、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者全員が対象者となります。

〇国が推進する障害者雇用率制度により、民間企業等で就労する障害者は増加傾向にあります。
障害者雇用率制度とは、従業員40人以上の民間企業や国、地方公共団体は、それぞれの法定雇用理知に基づき、一定割合以上の障害者を雇用死ななければならないとする制度の事です。
昭和51年に義務化され、その時の法定雇用率は1,57%でしたが、令和6年度の法定雇用率は2,5%(民間企業)と段階的に引き上げられています。
法定雇用率の導入以来、雇用されている障害者は毎年増加しており、令和6年度の雇用障害者数は677,461.5人と、過去最高を更新しました。
障害種別での雇用障害者数を見ると、身体障害者(身体障害者手帳所持者)が最も多く368,949.0人(対前年比2.4%増)、知的障害者(療育手帳所持者)は157,795.5人(同4.0%増)、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)は150,717.0人(同15.7%増)と、いずれも前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が大きかったようです。
(令和6年厚生労働白書 障害者雇用状況報告の集計結果)

〇「就労していると不支給になる」は誤解
内閣府が発表している令和6年版障害者白書によると、18歳~64歳の在宅者数は58万人、そのうち障害者雇用数は18.8万人となっており、障害者雇用率は27.2%です。これによれば障害者の4人に1人は就労していることになります。
厚生労働省が発表した「平成17年度知的障害児(者)基礎調査結果の概要」によると、知的障害のある人のうち「中度」「軽度」は49,0%となっています。
一般企業や特例子会社等で働く知的障害のある人の多くが「中度」「軽度」と考えられることから、「中度」「軽度」のうち2人に1人が就労していることになります。

知的障害・発達障害があり障害者雇用されている方のうち、障害年金を受給している人の割合に関する正確な統計データは、現時点では公表されていません。
ただし、いくつかの情報から推測することは可能です。
厚生労働省の「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)」によると、障害年金受給者全体のうち、約34%の方が就労しながら年金を受給しています。精神障害者に限ると、約28%というデータがあります。
令和元年度のデータでは、知的障害のある方の障害年金受給率は約73.6%となっています。
これらの情報を総合的に見ると、知的障害・発達障害があり障害者雇用されている方の中で障害年金を受給している方の割合は、就労者全体の受給率よりも低い可能性が考えられます。しかし、知的障害者全体の障害年金受給率は比較的高いことから、障害者雇用されている方の中にも一定の割合で受給者がいると考えられます。

このことから、障害者雇用で就労している知的・発達障害者の障害年金審査のおいて、「就労している」というだけで不支給になることは少なくなっていると考えられます。

(2)就労系障害福祉サービス(障害者総合支援法)

就労継続支援A型・B型事業所や就労移行支援事業所を利用している場合でも、障害年金を受給することは可能です。
これらの就労系福祉サービスは、障害のある方の就労や社会参加を支援することを目的としており、障害年金は障害による所得減少を補填する目的があるため、両制度の併用は矛盾しません。
一般企業への就職と同様に、就労継続支援A型事業などで一定以上の収入がある場合は、障害年金の支給が停止または減額される可能性があります。
ただし、就労継続支援B型事業の工賃は一般的に低額であるため、障害年金の受給に影響を与える可能性は低いと考えられます。
障害年金の受給は、就労状況だけでなく、障害の程度によって判断されます。

就労系福祉サービスを利用していることは、必ずしも障害年金の等級に影響を与えるものではありません。
就労系障害福祉サービスは、一般企業で働くための訓練、又は一般企業で働くことが困難な方が働く場なので「就労」とみなされません。
サービスを利用しているという事実だけで、直ちに「障害の程度が軽い」と判断されるわけではなく、事業所等へ通所していることのみを理由として、障害年金が不支給になるということは基本的にはありません。

(3)その他(家業など)

家業を手伝う、従業員が少数で障害者雇用率制度の適用外となる事業所で就労している場合などが考えられます。
家業を手伝う等という行為自体が、直ちに受給要件を満たさなくなるわけではありません。
重要なのは、このような就労の実態が、診断書や病歴・就労状況等申立書に記載された障害の状態と整合性が取れているかという点です。
これらの働き方でも、家族や職場から相当程度の援助や合理的配慮を受けて働いている場合は、障害年金を受給することができます。

就労の事実が障害年金の審査で不利に扱われないための重要なポイント

障害年金の審査では、働いているという事実だけではなく、その就労状況の詳細と、日常生活への支障の程度が総合的に判断されます。不利な扱いを避けるためには、以下の点を具体的に伝えることが重要です。

1. 就労状況の詳細を明確に伝えること

・特別な配慮や援助の内容: 家族や職場からどのようなサポートを受けているかを具体的に説明します。
例:「家族の〇〇の送迎なしには通勤できません。」
例:「職場では、重い 物を持つ作業は免除されています。」
例:「体調が悪くなった場合に備えて、休憩時間を通常 より多く取らせてもらっています。」
・労働時間や業務内容の限定性: フルタイムや健常者と同じような働き方ではないことを明確にします。
例:「1日の労働時間は〇時間以内です。」
例:「担当業務は、〇〇のような単純作業に限定されています。」
例:「週に〇日程度の勤務が限界です。」
・体調の波と就労の不安定さ: 安定した就労ではないことを伝えます。
例:「体調の良い日もあれば、週 の半分以上は自宅 で療養しています。」
例:「無理をして出勤すると、その後数日間は動けなくなります。」
・就労による体調への影響: 仕事がご自身の体調にどのような負担を与えているかを具体的に説明します。
例:「仕事が終わると、強い疲労感で残り の時間は何もできません。」
例:「ストレスによって、精神的な症状が悪化することがあります。」

2. 日常生活における困難さ が依然として大きいことを強調する

・就労以外の日常生活での支障: 食事、入浴、着替え、移動、家事、他人とのコミュニケーションなど、就労以外の場面でどのような 困難を抱えているかを具体的に示します。
例:「一人での外出は不安があり、家族の助けが必要です。」
例:「家事は最小限のことしかできず、定期的な援助が必要です。」
例:「服薬や通院は毎日 欠かせません。」
・就労が日常生活に与える制限: 就労によって、他の日常生活にどのような影響が出ているかを具体的に説明します。
例:「仕事がある日は疲れ切ってしまい、他のことをするエネルギーがありません。」
例:「限られた時間の中で家事や休息をとる必要があり、非常にストレスを感じます。」

3. 医師に就労状況を正確に伝え、診断書に詳細に記載してもらう

診断書の重要性: 医師に、家業の手伝いの内容、時間、頻度、そしてそれによる体調の変化などを詳しく説明し、診断書に具体的に記載してもらうように依頼します。
医師との連携: 医師が単に「就労している」という事実だけで判断しないよう、ご自身の障害による就労状況や日常生活の支障を丁寧に伝え、理解を得ることが重要です。

4. 病歴・就労状況等申立書で自身の言葉で詳細に説明する

・具体的に時系列に記述
診断書だけでは伝えきれない、就労状況や日常生活の状況を具体的に、時系列に記述します。
・やむを得ない就労であることの強調
生活のために最小限の就労を余儀なくされている状況であれば、その経済的な理由なども含めて説明すると良いでしょう。
・否定的な側面も率直に伝える
就労による体調不良や精神状態、周囲のサポートなしには就労が困難であることなどを包み隠さず 伝えます。
例:「私は〇〇という病気で〇〇級の障害手帳を取得しています。家業の〇〇の手伝いを週に〇時間程度行っていますが、これは 生活費を最小限 稼ぐためであり、夫の日常的な助けなしには困難です。仕事内容は〇〇(具体的な作業内容)のみで、重い物を持つことはできません。仕事後には〇〇(具体的な症状)が強く出て、残りの時間はほとんど自宅で横になっています。日常生活では、〇〇(具体的な困難事例 )があり、一人で〇〇をすることはできません。」

医師が作成する診断書の「エ 現症時の就労状況」に上記の内容を反映して記載してもらうためには、診断書作成を依頼するときにあらかじめ情報をまとめたメモを提供しましょう。医師の負担を軽くすることにもつながります。

まとめ

知的障害や発達障害を持ちながら就労していても、要件に該当すれば障害年金は受給できます。
生活のベースとなる障害年金を受給することができれば、ご自身にあった働き方を選択することも可能です。
就労の事実だけでなく、その背景にある必要性、 限定性、周囲のサポート、そして日常生活における継続的な支障を詳細に伝えることが、不利な扱いを避けるための最も重要なポイントです。
また、不安な場合は、障害年金の専門家である社会保険労務士に早めに相談することをお勧めします。

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