障害年金不支給件数倍増問題について
この不支給決定の増加傾向について、いくつかの要因が指摘されています。
その内容を見ていきましょう。
目次
- ○ 審査の厳格化
- ○ 「判断誘導」の可能性
- ○ 「生活能力」や「就労能力」への注目
- ○ 審査厳格化がもたらす影響
- ○ まとめ
審査の厳格化
審査が厳格化した要因として、以下の内容が考えられます。
①財政負担の増大と持続可能性への配慮
障害年金制度の財政負担が大きくなる中で、審査基準が年々厳しくなっているという見方があります。
障害年金は、原則として国民年金や厚生年金保険の保険料を財源としています。少子高齢化が進む日本では、現役世代が減少する一方で、年金受給世代が増加しており、社会保障制度全体の財政は厳しい状況にあります。
このような状況下で、年金制度の「持続可能性」を確保するために、給付の適正化が図られる傾向にあります。これは、年金制度に限らず、医療や介護などの社会保障制度全体に共通する課題です。
②センター長の交代
2024年度から年金機構の障害年金センター長が代わり、審査書類の形式や要件に対してより厳格な姿勢が示されたことが、不支給増加の一因ではないかという指摘もあります。センター長自身は「審査を厳しくするよう指示したことはない」と述べていますが、職員の証言や審査結果のデータからは、運用に変化が生じていることがうかがえます。
もし、このようなことが事実であるとすれば、トップの違いで支給不支給決定の違いが出るのは、審査が客観性に欠けるということになります。
③特に精神・発達障害への影響
外見から障害が見えにくい精神疾患や発達障害の場合、審査がより厳格に行われる傾向にあります。機構側に都合のよい部分だけを切り取って「不支給」と判断されるケースでは、症状に波があるにもかかわらず、回復部分のみピックアップし、落ち込み部分は無視するような事例なども報告されています。
「判断誘導」の可能性
さらに衝撃的なのは、機構側が審査に関与する医師(認定医)に対し、不支給や低い等級につながるような「判断誘導」とも取れる内部文書を作成・使用していた可能性が報じられたことです。
①「傾向と対策」文書
記事によれば、年金機構が140名に上る認定医一人ひとりの「傾向と対策」をまとめた資料を作成していたとされています。この資料には、「基本的にこちら(機構)の意向に沿って柔軟に認定(判定)していただけますので、方向性や(障害の)程度、不支給理由に関してもあらかじめ決めておくのが望ましい」といった記述があったと報じられています。
②「事前確認票」
認定医が診断書などを確認する際に使用する「事前確認票」が、職員の意向を反映した形で作成されており、認定医の判断に影響を与えている可能性も指摘されています。
また、申請書類だけでなく、カルテの内容や、場合によっては年金機構から申請者の主治医への照会が増えるなど、より詳細な情報収集が行われることがあります。これは、書類の内容と実際の状況に乖離がないかを確認するためのものですが、申請者側からは「疑われている」と感じられることがあります。
「生活能力」や「就労能力」への注目
特に精神・発達障害の場合、外見から障害が見えにくいため、日常生活能力や就労状況が詳しく審査されます。わずかな回復傾向や、部分的な就労(短時間勤務など)であっても、「生活能力や就労能力がある」と判断され、不支給となるケースが増えているという声があります。例えば、「食事が摂れる」「短時間でも外出できる」といった情報が、全体的な障害の重さを見落とす形で不支給の理由とされた事例も報告されています。
審査厳格化がもたらす影響
審査の厳格化は、本来支給されるべき障害のある方が年金を受け取れないという事態を招き、以下のような問題を引き起こす可能性があります。
①経済的な困窮
障害年金は、障害により生活や就労に支障がある人々の生活を支える重要な柱です。不支給となれば、経済的な困窮に拍車がかかり、生活基盤が不安定になります。
②精神的な負担の増大
申請手続きの複雑さに加え、不支給決定という結果は、申請者にとって大きな精神的ストレスとなります。病状の悪化につながる可能性もあります。
③制度への不信感
制度の透明性や公平性への疑問が生じ、本当に困っている人が救われないという不信感が広がる可能性があります。
まとめ
障害年金制度の財政負担が大きくなる中で、制度の持続可能性を確保しようとする動きは理解できます。しかし、それが審査の厳格化につながり、本来支援が必要な人々が年金を受け取れない事態は避けるべきです。
審査の厳格化に対応するためには、申請者側が自身の障害状態を正確かつ具体的に伝えるための適切な書類作成がより一層重要になります。また、必要に応じて社会保険労務士などの専門家のサポートを受けることで、不支給のリスクを軽減し、適切な受給につなげることが求められます。制度の透明性の向上や、審査基準の明確化も、今後の重要な課題と言えるでしょう。
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