通院している病院によって有利不利?
このような話を聞くたびに、障害年金を受け取る事ができるにも関わらず、受け取っていない方はどれほどいるのかと、胸が痛みます。
社会保険労務士は、障害年金の申請サポートができる唯一の士業であり、障害のある方がその人らしく自立して生きていけるようお手伝いすることにやりがいを感じています。
今回は、そのような思いを抱いてサポートをされている社会保険労務士の方々の著書「誰も知らない最強の社会保障 障害年金というヒント」から一部を抜粋して紹介します。
目次
- ○ 通院先によって公平性が損なわれないように
- ・障害年金を受け取ることがそんなに悪いことでしょうか
- ○ 同じ診断書なのに、結果が違うのはなぜ?
- ○ 人は皆幸せに生きる権利があるのだから
- ・分かってもらえないことの辛さ
- ○ まとめ
通院先によって公平性が損なわれないように
精神疾患で、何年物闘病生活にある青年が泣きながらこう言いました。
「障害年金の請求をしたいと言ったところ、『若いんだから、働くことを考えなさい。甘えているんじゃないの。そもそも障害年金なんて、一生働けない人がもらうものなんだよ。社労士だか何だか知らないけど、そんな人に頼まないで、自分でやればいいじゃない』と医師に言われました。病気を早く治して働きたいけど、治らなくて、病院に通っているんじゃないか。働けというなら今までなぜ、働けるように治療してくれないんだよ。いつも、病院に行くたびに交通費や診察代を親からもらわないといけない。お金を出してくれている親とも金銭面から関係が崩れてきていて、もう限界なんです」
ひどい抑うつ感から、ほぼ毎日一日中横になって過ごし、通院日は両親の付添のもと、なんとか通院しているとのことでした。障害年金の存在を知り、なんとか親に迷惑を掛けずに病気を治したいという気持ちから相談に来てくれたのでした。
しかし、障害年金を請求することで、親から白い目で見られるかもしれないという心配から、当初はご家族が不在の時しか連絡を取ることができませんでした。障害年金について、まずは親を説得し、その後医師に話すことを何カ月も全力を傾けてきた彼の気持ちは、医師の言葉で立ち直れないほどに傷ついていました。
病状から働けない状態が長くなればなるほど、経済的な不安を抱えながら生活をすることは避けられない事実です。親からの経済的支援は、長期化すればするほど、親子間であってもその関係がギクシャクしてきてしまいます。なかには、親からも見捨てられ、病状が重いまま家から追い出され。生活保護を受けているという方もいました。
「障害年金をもらうことは社会復帰を遅らせることになる」
「診断書を1通書くのに、いったいどれくらい時間がかかると思っているんだ。その間にどれだけの患者を診れることか」
「東日本大震災で皆が大変なときに、障害年金なんて。あなたより大変な人はたくさんいる」
「そんなに生活が苦しかったら、生活保護を受ければいい。私は医師だから、病気を治すことが専門だ」
「あなたは障害者じゃない。どこも悪くない」
など、医師からいわれたこんな言葉を、どれだけ耳にしてきたことでしょうか。思い出すだけで胸が痛みます。
障害年金を受け取ることがそんなに悪いことでしょうか
障害をもった方々は、障害により働けない経済的苦痛、病状による苦痛、さらには周囲に理解してもらえない精神的苦痛など、様々な苦痛と闘わなければならないのです。その経済的支援が障害年金の役割ではないかと思います。
治療のための通院ができない、電気・ガスが止まった、診断書代が出せないなど、障害年金の相談のときに。経済的苦しさを涙を浮かべ訴える依頼者は数多くいます。
それでも、医師には金銭的なことをなかなか相談できないと話します。
診察時間が短くて病状すら十分に伝えることができない状態のなか、経済的な相談など持ってのほかとか、貧しい状況を知られたくないなどさまざまな理由があるようです。
病気を治すには、お金が必要であることは言うまでもありません。
障害を負った人は皆、身体的な苦痛、働けないことによる経済的苦痛、そして精神的苦痛と闘っています。
これらのさまざまな苦痛を和らげるために、医師、ケースワーカー、患者会、行政機関など、皆で協力し合える社会的組織を作ることが大切なのではないかと感じています。
患者の生活面までも心配し、障害年金の重要性に対して理解を示していただける意思がたくさんいることも確かです。医師の中には、障害年金が認定されなかったとき、患者のために年金機構まで電話をしてくださる医師もいます。
患者は皆、医師に人生のすべてを託しているといっても過言ではありません。
通院している病院によって、障害年金を受けることに有利不利が内容、公平性を保った制度であってほしいと願うばかりです。
同じ診断書なのに、結果が違うのはなぜ?
障害年金の請求には障害認定日の遡及請求という請求方法があります。
Sさんは、初診日からずっと現在に至るまで、一貫して病状が悪い状態にありました。
そのため初診日から1年6か月後の診断書と現在の診断書の2通を提出することにしました。
その2枚の診断書は、病状が一貫して悪かったと読み取れる、ほぼ同じ内容のものでした。ヒアリングでも、病状は変わらずに悪い状が続いていると言わざるを得ない状態でした。まさに2つの診断書は、日付だけが違っているというものでした。
にもかかわらず障害年金を請求した結果は、1枚(初診日から1年6ヶ月後)は不支給、もう1枚(現在)は2級認定だったのです。なぜ、このような結果になったのでしょうか。
日本年金機構が2枚の診断書についてどのような審査を行ったのか、不支給決定通知には記載されていません。
一応の認定基準がありながら、その運用は秘密のベールに包まれています。
その後、審査請求を行い、不支給であった遡及分についても2級が認められました。
個人で請求を行った場合は、不支給決定通知を受け取ってしまうと、精神的にも苦しくなり、おそらくその場であきらめ、審査請求まで行おうというエネルギーも起こらないでしょう。
なぜ不支給であったのかを、不支給決定通知に詳細に理由を記載するような形式にならないものかと感じています。
また、審査の途中では、カルテの写しを求められることもあります。医師のなかには、自分の記載した診断書に疑いを持っているのかと憤慨される方も少なくありません。そういったことが重なると、医師はもう障害年金の診断書を書くことから心が遠ざかってしまうでしょう。
もっとスムーズに審査が進み、医師とも良好な関係を築けるように配慮された制度であってほしいと感じています。
せっかくの良い制度なのですから、皆が利用できるように、そして、医師にも快く診断書を記載してもらえるような、患者にとって良い環境を整えることこそが、国の福祉の充実につながるのではないかと思っています。
人は皆幸せに生きる権利があるのだから
日本に生まれて良かった、そう思える国で暮らしたいと誰もが願っていることでしょう。
人生にはアクシデントがつきものです。そんなとき、経済的扶助として障害年金という制度があるのではないでしょうか。
私は、こんな素晴らしい制度があるにもかかわらず、その存在の認知度があまりにも低いことに対して、残念でなりません。
国民年金保険料を納めることができない場合でも、免除制度を利用することによって、万が一障害を負った場合でも、障害年金を請求することができるのですから、多くの人がこの制度をフルに利用するべきだと思います。
初診日よりも前に年金の保険料を納めていない、若しくは免除制度の手続きを行っていないがために、障害の状態にありながら、請求すらできない人たちに出会うたびに、残念に思います。
障害年金制度の認知度の低さもさることながら、免除制度などの認知度の低さもどうにかしなければなりません。なんとか、国民に認知させる方法はない者かと思っています。
日本には、素晴らしい制度があるのですから…
分かってもらえないことの辛さ
ある女性が、「なんてお国は障害者、弱者に対して冷たいのでしょうか。辛くてしかたありません」と涙ながらに語っていたことを思い出します。
いつも冷静な彼女が、吐き出すように、声を震わせ「私、何も悪いことしていないのに。
私、なんの悪いことしたの。なんでこんな身体になったの。助けてよ。誰も助けてくれないんだから。生きている価値なんてないんだもの。こんな身体で結婚もできない。だれからも愛してもらえない。国だって、弱者を見捨てるんだから」と泣き崩れました。
私自身も思わず涙がこぼれ、止めることはできませんでした。今でもこの言葉が頭に残っています。
「障害」という響きに戸惑い、違和感を覚え、今まで障害年金の請求に踏み切れなかったと話す方にも多く出会ってきました。
自分で望み障害者となったわけでもなく、その響きに深く傷つき、請求を躊躇してきたと涙ながらに話される方もいました。
ご家族の方から、障害年金請求することに対して理解を得られず、結局のところその請求をあきらめた方もいました。
障害年金は、国が定めた制度であり、一定の障害の状態に該当すれば、受け取る権利があるのです。
人は皆、幸せに生きる権利があるのですから、自分らしく、希望を持って生きていける社会であってほしいと感じています。
出典 中井 宏 誰も知らない最強の社会保障 障害年金というヒント 三五館 2014年
まとめ
最近、障害年金の不支給率が高まっているという報道をよく目にします。
特に精神疾患や軽度の身体障害による申請では、不支給となるケースが目立っています。
背景には、年金制度の持続可能性を確保するため、厳格な審査基準を設けていることがあります。また、申請者数の増加に伴い、より慎重な審査が求められていることも影響していると考えられます。
しかし、そのために認定基準に該当しているにもかかわらず、なぜ不支給になったのか理由が分からないケースは、障害年金申請者にとって大きなダメージとなります。
障害年金が受給できれば、無理せず自分にあった働き方を選択することも可能でしょう。また、精神的な不安が軽減され、治療が前進する可能性もあります。
その後、立派に社会で活躍されるようになった方もいます。
人はいつ病気になるか、いつケガをするのか誰にもわかりません。
障害年金制度は、すべての人にかかわる制度でもあるのです。
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